そうだ、弁護士さんに聞いてみよう
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法律相談センター 0570-783-552 (ナヤミココニ)
第13回:2012年10月30日放送分 テーマ「労働問題」
ご出演:福岡第一法律事務所 中山篤志先生
Q:今週は過労死に関する問題についてですが、先生の事務所では、過労死問題に積極的に取り組まれているそうですね。
A:はい。ただ最近は過労死問題に取り組む法律事務所は増えてきています。
Q:例えば、過労が原因で何らかの病気になってしまったような場合、
どう対処したらいいのでしょう。
A:過労が原因で心筋梗塞や脳梗塞を発症する場合があります。この場合に労災補償の対象となります。会社で社労士と契約している場合は、会社で労災の手続をしてくれる場合があります。
そうでない場合、自ら労災申請をすることになりますが、弁護士がサポートをすることができますがので弁護士に相談されると良いと思います。労災申請前に必要に応じて証拠保全の手続をした方が良い場合もあります。
Q:証拠保全の手続きについて、もう少し詳しく教えて頂けますか?
A:過労死事件では発症前1か月ないし6か月にわたって、1か月の残業時間が45時間を超えて残業時間が長ければ長いほど業務と発症の関連性が徐々に強まると評価され、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連生が強いと評価されます。要は残業時間が認定のポイントとなることが多いです。
しかし、その残業時間についての立証をするための資料を雇い主が隠滅してしまうことも稀にあるので、押さえてしまうというのが証拠保全という手続きです。
Q:過労が原因で死に至るケースさえあると言われていますが、例えば自分の家族が、過労が原因で死亡したと思われる場合、どうしたらいいのでしょう?
A:遺族が労災申請を行うことができます。事業所がある所轄の労働基準監督署で申請手続を行います。
Q:労災と認定された場合、どのような補償が受けられるのでしょう?
A:「療養補償」は医療費全額が支給されます。「休業補償」としては、給付基礎日額(直近3か月間の賃金の平均月額)の60%、休業特別支給金として20%が、治療のため休業している期間の日数分支給されます。労災で亡くなった場合、遺族に対しては遺族補償年金、遺族特別支給金、遺族特別年金の遺族補償と葬祭料が支給されます。また、労災で亡くなった場合、亡くなるまでに治療期間があった場合は、その間の療養費と休業補償が支給されます。
Q:労災の請求に期限等はあるのでしょうか?
A:請求の内容によって、2年で時効になる場合、5年で時効になる場合がありますので、出来るだけ早く相談に行かれることをおすすめします。
Q:労災の請求をしても、会社が協力してくれないケースもあるようですね。
A:時々ありあすが、会社の協力がなくても、遺族だけで申請することができます。
第12回:2012年10月23日放送分 テーマ「労働問題」
ご出演:福岡第一法律事務所 中山篤志先生
Q:解雇に関する相談といいますと、これまでどんなケースがありましたか?
A:能力不足を理由とする普通解雇、職務命令違反を理由とする懲戒解雇、業績不振を理由とする整理解雇など。また、実態が解雇なのに、自主退職(自己都合退職)になっているパターンです。
Q:最近は雇用形態も多様化して、あらかじめ期限を定めて働くケースも多くなっていますがそのあたりはいかがでしょうか?
A:パート、アルバイト、契約社員等、期間の定めのある労働契約で働いている方(「有期雇用労働者」といいます。)が、契約期間満了を理由に契約を打ち切られることを「雇止め」と呼びます。有期雇用の場合、もともと期間満了とともに契約終了が予定されていることから、契約上の定めた期間1年とか半年とかの契約ですから、期間が到来したら契約が終了するのが原則です。ですから、契約更新をしないことは原則適法なのです。
Q:有期雇用の場合でも、期間の定めのない雇用と同等の保護を受けられる
ケースもあるようですね。
A:例外的に、実質的に期間の定めのない契約と変わりがないといえる場合や、雇用継続に対する労働者の期待に合理性がある場合には、通常の雇用と同じ程度に保護される可能性があります。
具体的には、①当該雇用の常用性・臨時性、②雇用の通算期間、③更新回数、④契約期間管理の状況(更新手続が形式的だったり、契約書を作っていない場合)⑤雇用継続の期待をもたせる言動・制度の有無等を個別に判断して,それらに当たるかどうかを判断していくことになります。
Q:いわゆる契約社員と呼ばれる雇用形態でも、契約を何度も更新しているようであれば、社員と同じ程度の保護が受けられるということですね?
A:そういうことです。
Q:解雇とはちょっと違いますが、業績不振などの影響で給料を下げると会社側から言われた場合、もうどうしようもないのでしょうか?
A:賃金などの労働条件は使用者と労働者の契約によります。従って原則として使用者が労働者の同意なく一方的に労働条件を切り下げることはできません。もっとも判例上就業規則の変更による不利益変更については、合理性があれば認められることになっています。この判断は容易ではないので、弁護士に相談することをおすすめします。
Q:それから職場でのセクハラへの対処法も伺いたいのですが・・・
A:セクハラ被害を受けた場合、一人で抱え込んでしまう場合、ハラスメントがエスカレートしていくこともあるので、早めに弁護士に相談して対策をとった方が良いと思います。セクハラを会社との関係で公然化させ、被害を辞めさせるために内容証明郵便で加害者と使用者に申し入れるということが考えられます。きちんとした対応が無い場合には、労働審判などの裁判手続でセクハラの再発をさせないことを求めることもできます。
退職が前提である場合には、加害者に対して損害賠償請求を検討することが考えられます。また、会社にはセクハラ発生を防止し、発生した場合には迅速かつ適切に対応する義務が課せられているため、会社がこれらの義務に違反したと認められる場合には会社に対する損害賠償請求も考えられます。
Q:パワハラというのもありますが・・・
A:最近、上司がその職務上の地位・権限(パワー)を濫用して、部下の人格を損ねる「パワーハラスメント」が話題になっています。ミスをした部下を注意したり叱責すること自体は,職務の円滑な遂行上一定限度で許容される一方で、私情を挟んだり、部下の人格を貶めたり、うつ病等の精神障害に追い込むほど執拗かつ過剰な叱責は不法行為または安全配慮義務違反として違法となりうる余地があります。自主退職に追い込むための手段としてパワハラを行う悪質なケースもあります。ひとりで悩まず、お気軽にご相談ください。
Q:セクハラ、パワハラに限らず、職場での問題があっても、裁判となるとちょっと・・・と、ためらってしまう人も多いのではないでしょうか?
A:先ほど紹介したように常に裁判にするということではありません。ただ、裁判手続にする場合、ハラスメントによる人格権侵害事案では、加害事実、その態様等を立証できるかが決め手になるので、証拠の収集は極めて重要です。録音などのほか、その場その場で詳細なメモをとっておくと良いと思います。
第11回:2012年10月16日放送分 テーマ「労働問題」
ご出演:福岡第一法律事務所 中山篤志先生
Q:今日は、解雇を巡る問題について伺いたいと思います。もしも何らかの理由により解雇すると言われてしまった場合、働く側としてはどのようなことに注意するといいのでしょう?
A:解雇の理由を書面で明らかにしてもらう。
Q:書面で明らかにすると、どういうメリットがあるのですか?
A:書面化してもらわないと、後に解雇理由を変更することがある。
Q:解雇の理由といいますと、どのようなものがあるのでしょう?
A:解雇には普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3つがあります。
Q:解雇を言い渡されても、仕事を失わなくて済むケースもあるようですね。
A:労働契約法16条は,「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と定めています。いくら雇い主だからといっても気に入らない社員を自由気ままにクビにしていいわけではなく、客観的に合理的な理由と相当性という2つの要件をクリアしないかぎりクビにはできない、ということです。
これについては、先ほどの解雇形態によって違ってきます。「能力不足」・「成績不良」という普通解雇であれば、まずは会社のいう能力・適性・勤怠上の問題があなたに本当に存在するかどうかが問われます。会社がありもしないことをでっち上げていたり、誇張していたり、事実を誤認していたりする場合は、そもそも「客観的に合理的な理由」がないということになります。仮に、解雇理由に思い当たることがあっても、すぐに諦める必要はありません。その理由が重大な程度に達しており、さんざん指導・教育してきたけれどもこれ以上改善の見込みがないという場合でなければ、「社会通念上相当」とは認められません。したがって、それまでほとんど指導も注意も受けていないのに突然解雇されたような場合であれば、やはり解雇の効力を争うことは十分可能です。
「職務懈怠」「業務命令違反」「職場規律違反」等の懲戒解雇の場合・・多くの場合、退職金の少なくとも一部が支払われず、再就職の重大な障害にもなるため、懲戒解雇の適法性は普通解雇よりも厳格(慎重)に判断されることになります。
①懲戒事由,種類・程度が就業規則に明記されていること
②同種先例と比較しても平等な処分といえること
③解雇以外の手段は考えられないくらいに重大な非違行為であること
④弁明の機会の付与等の適正手続を踏んでいること
というすべての要件をクリアして初めて懲戒解雇は有効とされるのです。
「事業縮小のため」「工場閉鎖のため」「経営悪化のため」等という整理解雇の場合・・本来社長や役員が負うべき経営の失敗の責任を労働者に転嫁するものですから、最も厳しく制限されています。
①人員削減の必要性
会社が儲かっているのであれば、そもそも経営不振を理由にクビを切ることは矛盾します。したがって「売上高が激減した」「大幅な赤字に転落した」等人員削減を必要とする背景が存在するかどうかが真っ先に問われなければなりません。
②解雇回避努力義務
解雇は生活の糧を奪う点で労働者の経済生活に大きな打撃を与えるものですから、整理解雇に先だって、配転・出向・希望退職の募集等のより痛みの少ない方策をとっていることが大前提です。したがって、このような方策を一切せずにいきなり解雇を行った場合は一発で解雇無効と判断される可能性が高いといえるでしょう。
③人選の基準
整理解雇がやむをえないといえる場合でも、会社は誰を解雇するか決めるにあたって、客観的かつ合理的な基準を定め、これに基づいて人選をしなければなりません。たとえば、まったく基準を作らずに行われた場合や、女性や組合員を狙い撃ちにするような基準に基づいて行われた場合には、解雇は無効とされます。
④手続の誠実性
最後に,労働組合や各労働者に対して、整理解雇の必要性や時期、規模、方法について納得を得られるよう誠意をもって説明・協議をしたかどうかが問題となります。およそ誠実と言い難いやり方で進められた場合は、やはりその解雇は無効となります。
以上のどれかにひっかかる場合には、泣き寝入りせず、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
Q:そのため(解雇を無効とする)にはどのような手続きが必要なんですか?
A:是が非でも復職を求めたい場合は、仮処分を起こした後に本裁判をした方が良いでしょう。労働審判は、双方歩み寄って金銭解決をするというのを念頭においているため、あくまで復職を希望する労働者の意向に沿いにくいし、相手方も復職を拒んだ場合には調停でまとまらないし、審判が出ても異議を出す可能性が高いからです。復職にはこだわらないという場合は、労働審判をお薦めします。
第10回:2012年10月9日放送分 テーマ「労働問題」
ご出演:福岡第一法律事務所 中山篤志先生
Q:賃金や残業代の未払いを巡る問題について伺いたいと思います。サービス残業という言葉を耳にすることがありますが、これ、法的には問題があるみたいですね。
A:就業規則などで定められている所定労働時間を超えた時間外労働(残業)に対しては、残業代の支払義務が生じます。とくに、労働基準法上,使用者は,労働者が1日8時間,1週40時間を超えて働いた場合には,割増賃金を支払う義務が生じます。なお,2010年4月からは、月60時間超の部分については50%の割増率となります。割増率は、通常残業で25%・休日労働で35%・深夜労働で25%となります。そして、例えば休日で深夜でしたら、35%+25%で60%の割増率になります。残業をすれば残業代が発生するのは当然で、割増率に応じた残業代が発生します。サービス残業ということ自体が労働基準法に違反するのです。
Q:実際には残業代をキチンともらえていない人、多いのではありませんか?
A:残業代未払いは後をたちません。
本来すべき割増をしていないという会社もありますが、残業代自体を払っていない、正にサービス残業が横行している会社も多いと思います。
Q:具体的にはどのようなケースがあるのでしょう?
A:「タイムカードがないから何時間残業したかわからない」として支払を拒む場合があります。手帳や日記、メール、パソコンの使用歴などでなるべく証拠を残しておくことが大切だと思います。
Q:ほかにはどうのようなケースがありますか?
A:「管理職だからそもそも残業代はつかない」と主張するケースもあります。法律上、残業代を支払わなくてよい「管理監督者」とは、経営者と一体的立場にある者をいい①企業経営全般における重要な職務と権限を付与され②出退勤の拘束の程度が弱く③一般従業員と比較して賃金上優遇されていると認められなければなりません。支店長代理や部長クラスという肩書きであってもこの「管理監督者」には該当しないと判断した裁判例もあり、各企業の「管理職」のほとんどは「管理監督者」にあたらないといえます。したがって、残業代を請求できるケースが多々あります。
Q:残業代を、時間に関係なく残業手当という名目でもらうケースもあるようですね。
A:残業代の定額支給それ自体は適法ですが、そもそも当該手当が時間外労働に対する対価としての実質を持っていなければ、無効です。また,仮に手当が時間外労働の対価的性質を有する場合でも、労基法所定の計算方法に従って割増賃金を計算した場合との差額がわかるようになっていなければやはり無効です。もちろん、差額を当然支払う義務もあります。
Q:営業職の場合、営業手当という形で支給されることもよくあるようですが・・・。
A:営業職の場合、日中は会社にいないことが多く、外回り中、サボらず働いているのかどうかも正確にわかりません。しかし、営業職だからといって、会社が労働時間管理を免れるわけではありません。基本的には、前記の定額手当と同様に考えてよいでしょう。例外的に「事業場外みなし労働時間制」を就業規則に明記している場合は労働時間管理を免れることができますが、その場合であっても、直行直帰を認めなかったり,携帯電話でいつでも連絡がつくような場合は、原則どおり労働時間管理義務が課せられ、残業実績を立証できれば残業代を請求できる可能性があります。
Q:年俸制や歩合制となっている会社の場合はいかがですか?
A:社内就業規則でどのように賃金支払方法を定めようと、強行法規たる労働時間管理義務及び割増賃金支払義務を免れることはできません。したがって、このような主張が裁判で通用する見込みは低いでしょう。
Q:残業代などの問題で何か気をつけるべきことはありますか?
A:労働債権は2年間で時効にかかってしまいますので、注意が必要です。
Q:こうした問題を解決するには、裁判よりも簡単な方法があるということでしたよね?
A:3回以内で決着がつくという迅速な手続で、1回目までにお互いが主張と証拠を全て提出して1回目に出廷した当事者の話しを基に形成された心証によって調停案が示さ、これを双方が受諾するか、しない場合に裁判所から出される審判によって決着が図られるが、審判に異議が出されると通常訴訟になります。費用も裁判に比べると安くすみますので、是非弁護士に相談下さい。
第9回:2012年10月2日放送分 テーマ「労働問題」
ご出演:福岡第一法律事務所 中山篤志先生
Q:労働問題といいますと、どのような相談が多いのでしょう?
A:私の事務所では、雇い主から一方的に雇用契約を終了される解雇問題、残業代や給料の未払いが支払われていない問題が同じくらい、その次に若干数は少なくなりますがセクハラやパワハラの問題、そして、労災とりわけ過労死や過労自殺の問題があります。
Q:そうした問題を解決するためには、やはり裁判で白黒つける、ということになるのでしょうか?
A:労災事故は、労災認定を申請したうえで場合によっては裁判を起こします。ほかの問題についても、裁判で決着をつけることはありますが、労働審判という制度を利用することが今は主流になっています。
Q:労働審判とはどういうものなのか、詳しく教えて頂けますか?
A:平成18年4月から始まった制度で、通常の裁判よりも迅速に労働問題を解決するために発足しました。裁判ですと、半年、1年経ってしまうことが普通なのですが、このような労働問題でそれだけ期間がかかると、労働者の生活が困難になってしまうことと、費用対効果の点でも見合わないという問題もあり、非常に期待されて導入されました。福岡県では福岡本庁と小倉の裁判所で起こすことができます。
Q:裁判よりも、手軽に利用できそうですね。
A:はい。3回の期日で終了します。しかも、通常40日以内に第1回期日が設定され、多くは2か月以内に最終決着します。
Q:どのような形で審判を進めていくのですか?
A:第1回までに申立人も相手方も主張と証拠を全て提出しておきます。期日では、裁判官(審判官といいます)と民間から選ばれた2名の労働委員が対応します。期日には、必ず当事者の出廷が求められ、第1回期日では、冒頭プレゼンが行われ、次に当事者に質問がされて話を聞きます。それで基本的に心証がとられて、その回が次回に調停案が示されます。多少増減の調整がされたうえで、当事者双方が同意すれば終了しますが、調停がまとまらない場合は、審判が下ります。その審判に不服で、異議を出せば通常訴訟に移行します。
Q:費用も、裁判を起こすより安くすむのでしょうか?
A:はい。事務所によって幅がありますが、通常の裁判よりも拘束時間が短いので安く値段設定をしている所が多いと思います。